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手の応答−生活工芸の作家たち / 三谷龍二
商品詳細
「生活工芸」の代表作家であり、「生活工芸とは?」という問いにむきあいつづけた木工家・三谷龍二さん監修の展観図録として製作。自身をふくむ12作家を6のテーマ──「生活工芸」の6要素──に分類し、解説を附す。2000年代日本の生活文化を牽引した「生活工芸」の現在地を示し、その意義を再考する書。
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はじめに
手|山本亮平 小澄正雄
反|大谷哲也 杉田明彦
外|辻和美 安藤雅信
器|内田鋼一 金森正起
貧|坂田和實 岩田美智子
弱|冨永淳 三谷龍二
あとがき
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この本は、「生活工芸」の展覧会を開催したいという海外からの依頼をきっかけに、それに応えて12人の作家を選ぶところから始まった。「生活工芸」が起こってすでに30年が過ぎ、日本では当たり前のようになっている。若い世代にとっては過去の話であるが、成り立ちを少しおさらいしたいと思う。
1990年代、過剰な物欲と飽食の日々に明け暮れたバブル期が終わり、日本の経済が急速に縮小していくなかで、「生活工芸」は誕生した。当時は工芸も同様で、前衛工芸は人を驚かすような過剰な表現であったし、伝統工芸も技術偏重、装飾過剰であった。つまりどちらも、僕たちの生活から遠く離れていたのだった。だから僕たちは、大量生産品でもなく、過剰な作家物でもない、その中間にあるものに心惹かれたのだった。
立派な工芸よりも、素材をきちんと選び、過不足なく手を入れた日用品、実のあるものが欲しかったのだ。おそらく「生活工芸」は、個人の生活実感を基点にすることで、従来の価値観を相対化しようとしたのだと思う。
それにしても、あの時代、僕たちが身近に引き寄せたいと思った「生活」とはなんだったのだろう。過剰なものに囲まれ、自分の存在が稀薄化していくと感じていた。だから、自分の生命のかたちを、手を動かして物を作ることで回復できないか、と藻搔いていたのだった。そのために自己表現を諦め、社会のなかへと沈み、他者とのつながりを選択したのだ。
「生活工芸」が幸福だったのは、多くの使う人たち、橋渡ししてくれるギャラリーなどの支持があって、「作る」と「使う」がうまく循環し、輪が広がったことだろう。器は作り手のものであるとともに、使う人のものでもある。その、作る側からの一方的な押し付けではないあり方に、物作りの可能性を感じたのだった。
工業化が進んだ先進国では、手仕事のほとんどは機械生産に変わってしまっている。実用だけが目的なら、それで何の問題もない。しかし日本では、未だ手仕事の作家がたくさんいて、それを使う人も多い。手工芸を普段使いにして楽しむ文化が、今も循環(市場)を作っている、そのことの意味を改めて考えるべきだろう。
現在、日本の工芸は海外でも受容され、ある種の活況を呈している。悪いことではないのだが、 消費ばかりが先行し、大切なものを置き忘れてしまう危うさも感じている。そこで、改めて「生活工芸」の核となる考えと、その代表的作品を提示することが大事だろうと思った。それが本書を作った理由でもあった。
重視したのは図版であった。工芸においては「物を見る」ことが重要だからだ。「生活工芸」も 30年を超え、作家も作品の幅も広がっている。近年はSNSの普及もあって作品発表の仕方も多様化し、現在は「なんでもあり」の状態と言えるだろう。日本の工芸においては、作者だけでなく選者も大きな役割を果たしてきた。そのことは今も重要と思うので、図版でしっかりと作品を知ってもらい、それに解説を加えるという旧来の方法を踏襲した。
各章の六つのキーワードは、「生活工芸」にとって大切と思われるテーマを取り出したものだ。「手」「反」「外」「器」「貧」「弱」である。そしてそれぞれ二人ずつ作家を結びつけ、その作品について語りながら、「生活工芸」にとって大事なことを浮かび上がらせようと考えた。
今回の作業は、作り手の僕には荷が重い仕事であった。自信もなかったのだが、作家たちの力を借りながら、どうにかこのようなかたちまで漕ぎ着けることができた。作家たちに改めてお礼を申し上げたい。また、『工芸青花』の菅野康晴さん。取材の同行から始まり、作品写真、本文の助言など、多くの力添えをいただいた。この場を借りて謝意を伝えたい。
もともと生活と工芸は密接だったはずだが、「作品」意識が強くなると、「生活」はその背後へと押しやられていった。「生活工芸」の役割は、分離してしまった「生活」と「工芸」を、再び繫ぐことにある。この本もまた、その一助となれば幸いである。
(三谷龍二「あとがき」)
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