Benzo Esquisses 1920- 2012 / 井上弁造、奥山淳志

Benzo Esquisses 1920- 2012 / 井上弁造、奥山淳志

販売価格: 6,600(税込)

商品詳細

30.5cm×23cm 176P
500部 私家版発行
サイン入り

再入荷しました。

写真家の奥山淳志が『庭とエスキース』(みすず書房)で綴った、北海道の丸太小屋で自給自足の暮らしをしながら絵を描いていた「弁造さん」。本書は、奥山が「弁造さん」亡き後に預かっていたエスキースを、弁造さんが作った庭に持ち込み撮影した写真集。

写真家と「弁造さん」の最後の対話の記録。


―――

BENZO ESQUISSES 1920-2012について

1920年に北海道で生まれた井上弁造さんは、2012年に92歳で逝くことになる。

遠い少年時代、北海道開拓の過酷な生活のなかで絵を描くことに目覚め、通信制の似顔絵講座からはじまった絵描きへの夢は、弁造さんの人生そのものだったといえるだろう。

ただ、人生は思い通りにいかないことの方が多い。誰の人生にもあることだが、弁造さんは結局、自らの夢を叶えることができなかった。一生を通じて絵を描き続けたにもかかわらずたった一度の個展を開くこともなく逝ってしまった。果たして、そのような人を“絵描き”と呼んでいいものかと迷うときもある。そんなとき、僕は決まって弁造さんが暮らした小さな丸太小屋に遺されていた膨大なエスキース(習作)を思い起こす。晩年の弁造さんはエスキースばかり描き、絵を完成させることをしなかった。「自らの理想とする絵に近づくために」というのがその理由だったが、執拗にエスキースを描き続けた弁造さんの姿を思い返すと、僕には別の目的があったのではないかと思えてくる。弁造さんは最期まで切実な思いを持って絵を描き続けるために、最期まで絵を描くことを愛していると言い放つために、絵を完成させなかったのではないだろうか。

弁造さんが逝って今年で11年目を迎える。弁造さんと過ごした日々は遠ざかるばかりだが、レンズを通してエスキースを見つめる日々は僕に弁造さんとの新たな出会いを生んでくれたように思う。今日、エスキースを弁造さんに返そうと思う。

2023年7月5日
奥山淳志