WORKSIGHT 29 アーカイブする

WORKSIGHT 29 アーカイブする

販売価格: 1,980円(税込)

数量:
22cm×25cm 128P


黒鳥社が編集・制作を担当する、「自律協働社会」という社会像を手がかりに、これからの社会を考える上で重要な指針となりうるテーマやキーワードを拾いあげ、探究・発信するマガジン『WORKSIGHT』。

今号のテーマは「アーカイブする」。

データがあふれる時代に、わたしたちは何を未来に伝えるべきなのでしょうか。今号の特集「アーカイブする?」では、「記録」「保存」「継承」といった行為を、企業・文化・アート・哲学の観点から多面的に見つめ直します。

巻頭では、ロンドン某所にある世界有数の個人アーカイブである〈アーカイブ・オブ・モダン・コンフリクト〉のオフィスを訪れ、主宰のティモシー・プラスにインタビュー。戦争や社会の断片を蒐集し、「語られざる歴史」を再編集する試みはなぜ行われているのか。選定基準も分類もないアーカイブの極意に迫ります。

続いては、コクヨと関わってきた個人の人生から社史をまとめ直すプロジェクト「コクヨの生活社史」にフォーカス。社会学者・岸政彦と個人の声をアーカイブする方法について考えます。そのほかにも、ヤマハ・川島織物セルコン・ポーラ文化研究所に見る企業アーカイブの現在、建築・デザイン事務所スノヘッタによる“人と知が出会う風景”としての図書館設計など、アーカイブの事例を紹介します。

さらには、作家・円城塔、人類学者・ティム・インゴルド、漫画家・今日マチ子らによる「アーカイブの哲学」では、記憶と想像、身体と記録のあいだをめぐる思索を展開。情報学者・山田奨治が読み解くデジタル時代の知の共有と著作権の課題、メディア美学者・武邑光裕が論じる「記憶の時代」の新たな文化の姿など、アーカイブをとりまく議論を多層的に掘り下げます。

今問うべきは「何を残すか」ではなく「なぜ残すのか」。


【目次】
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アーカイブ・オブ・モダン・コンフリクト
矛盾と混沌の実験室
800万点を超える古写真、1000万点を超える古文書やアーティファクト。時空を超えてロンドン某所に集められた「語られざる歴史」の断片は、現在を生きるわたしたちに何を語りかけているのか───蒐集の基準も目的もない。一般公開もしていない。驚異の「反アーカイブ」に潜入した。
〈アーカイブ・オブ・モダン・コンフリクト〉主宰のティモシー・プラスに聞く、選定基準も分類もないアーカイブの、その極意。

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巻頭言
記憶のマネジメント
文=山下正太郎(本誌編集長)
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社員の人生は社史になるか
岸政彦と語る、コクヨ「生活社史」という試み
現在、コクヨで「生活社史」という一風変わった社史編纂のプロジェクトが進行している。文房具、家具、オフィス設計など、小売から企業向けまでユーザーとの多様な接点をもつ企業の歴史を、販売店、社員、家族などとしてさまざまにコクヨと関わってきた個人の人生からまとめ直す試みだ。個人のライフストーリーを集め、それを企業のアーカイブとして編纂するとき、どんなことを考えなければいけないのか。 『東京の生活史』をはじめとする「街の生活史」プロジェクトの編者も務め、生活史という学問と手法を社会へとひらくアプローチを続ける京都大学・岸政彦教授を招き、「コクヨの生活社史」編纂室が聞いた。

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企業アーカイブの現在地
仕事は流れ、そしてとどまる
[ヤマハ/川島織物セルコン/ポーラ文化研究所]
日々の業務は流れ去っていくように見えて、企業の内側には確かに残るものがある。独自の価値観や働き方、そこから生み出されるプロダクトなどといった、企業の記憶。蓄積していく仕事のなかから、それをどう捕まえることができるのだろうか。ユニークな視点から、企業の記憶を捉え、アーカイブとして価値化する3つの企業を訪ねた。

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21世紀の図書館のかたち
スノヘッタ・人と知が出会う風景
図書館はもはや記録を保管するだけの場所ではない。オスロで設立され、現在では国際的な建築プロジェクトを数多く手掛けるスノヘッタは、アーカイブを「保存のための保存」から解き放ち、人と知が交わり続ける「生きた」存在として再定義する。2023年末に開館したばかりの北京図書館の設計を通じて描かれるのは、記憶を未来へと更新し続ける、21世紀のアーカイブのモデルケースかもしれない。スノヘッタのアジア統括マネージングディレクターであるリチャード・ウッドへインタビューを行った。

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アーカイブの哲学
円城塔/ティム・インゴルド/今日マチ子/小原一真/藤井保文
国家や組織といった大きな歴史を形成するためだけにアーカイブが用いられた時代は終わり、人びとの記憶や声もまた保存の対象となった。公共的な記録と個人的な記憶の間を、現在のアーカイブは揺れ動いている。さまざまな分野の語り手たちが、それぞれの地点からアーカイブのあり方を見つめた。

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独占か共有か、それが問題だ
情報学者・山田奨治と考えるデジタルアーカイブ
デジタル技術の進歩により、知識や文化はかつてないほど自由にアクセスできるようになった。その一方、世界的に著作権の保護期間が延長傾向にあるなど、権利者による囲い込みも進んでいる。 『著作権は文化を発展させるのか:人権と文化コモンズ』などの著書があり、著作権制度の歴史と運用を分析してきた国際日本文化研究センターの山田奨治教授に取材した。文化の「公共性」を考えるとき、アーカイブはどのように保護され、ひらかれていくべきなのか。

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ブックリスト
アーカイブのアーカイブ
文書や声を集めて、取捨選択する。歴史を考証し、ときには偽る。アーカイブには、記録と記憶をめぐる人間の感情が縦横無尽に交錯している。アーカイブに対する語りを通して、わたしたちの欲望を覗き見る本のアーカイブ。

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記憶の時代と感情の共有地
文=武邑光裕
テクノロジーの発展により、わたしたちの記憶はデジタル・アーカイブへと移行した。いま人間が担うのは、アーカイブを検索し、記録され得なかった感情を呼び起こすことなのかもしれない。そんな時代と呼応するように「みんなのきもち」という名のDJユニットが注目を集めている。 「記憶の時代」の新たな文化の姿とは。メディア美学者・武邑光裕による特別寄稿。