あまり読めない日々 / 柿内正午

あまり読めない日々 / 柿内正午

販売価格: 1,500円(税込)

18cm×12cm 222P



『プルーストを読む生活』の著者で、「町でいちばんの素人」を自称する会社員、柿内正午による日記本。

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この本の作者、柿内正午は都内在住自称「町でいちばんの素人」、会社員である。

本作は日記本としては『プルーストを読む生活』、『町でいちばんの素人』に続く三作目にあたる。 本作では『プルーストを読む生活』の二匹目のドジョウを狙い「マルクスを読む生活」を試行して見事に失敗している。

その代わりと言ってはなんだが、人気スマホゲーム「Fate/Grand Order」にハマり、人生初の「推し」ネロ・クラウディウスと出会い、パンデミック以降の精神的にしんどい日々の鬱屈をコンテンツにより慰められるというありふれていながらもとても素晴らしいフィクションとの関係を築き上げていく様が滑稽なほど素直に語られている。

自らスノッブを自称する柿内が、スマホゲームに屈託なくのめり込んでいくのは見ていて小気味がいい。

今作の見所はネロちゃまへの熱狂だけではない。『プルーストを読む生活』の商業出版が決まり、じっさいにそれが刊行されるまでの心の移ろいは、一個人が「著者」になるまでの軌跡の一端を見るようだ。そしてそうやって過剰になっていく自意識と、パンデミックに際しての政府や会社に対して募らせる不信感とで、すっかり読書の喜びや日記の書き方を見失っていく姿は「人はこうも簡単に読めなくなるのだ」と恐ろしくなる。そしてそうであるからこそ、スマホゲームや映画など、本以外の作品を杖にかろうじて正気を保とうとする奮闘っぷりに打たれ、日々の喜びは何も本だけではないのだという気持ちにもさせられるのだ。
(著者あとがきより)