移住 : migration / 露口啓二

移住 : migration / 露口啓二

販売価格: 7,700円(税込)

数量:
22.4cm×29.7cm 336P


北海道の風景と歴史に着目した写真作品で知られる写真家、露口啓二による写真集。


諸力によって住むことが排除された、遍在する諸空間──
写らないものと向き合い、見えていなかった地層を探る視覚をもつ


『移住』は、露口啓二が2017年から撮影を開始したシリーズで、主に露口が編んだ年表とそれにまつわる史書の抜粋、写真で構成される全336ページの大冊である。

露口はこれまで、『自然史』(2017)、『地名』(2018)など、絶えず変容を続ける場所と、近代史の中で消尽させられてきた不可視な場所とを相対させ、写るものと写らないものの狭間 ≒ 風景を通して提示してきた。

本書では、先住民族アイヌともども国家に編入され、内地からの植民の対象となった「北海道」、加えてこの移住に強くかかわった「開拓使」と呼ばれた官庁が置かれた東京と札幌という都市の一部、 鉱山産業により形成され、その衰退と消滅に直面している諸地域、帰宅困難区域、皇居周辺を、写真で捉えることを主な軸としている。

ここでは「移住」を、生の排除された空間と、諸力によって生み出される空間の同質性から掘り下げ、本来不可視であるにもかかわらず「儀礼」(ときおり思い出しそして安堵して忘れる/捏造された視線)によって可視される空間として浮かび上がらせる。写真と並置された年表は文脈を指し示すものの、写真はそこから浮遊し、別の場所にまた現れ出す。写真と年表とは対等であり、自ずと乖離を孕むものとして、一冊の中に綴じ合わされる。


『移住』は、住むことが排除され偏在する空間でいくたびもおこなわれてきた儀礼に抗し、見えていなかった地層を探る露口の写真行為が積み上げてきた、不在の歴史への── やがてわたしたちとものたちとが大地と空のはざまでともに在ることができる空間を確保するための── 道標となった。



"困難な歴史への遡行という行為に際して、主情的な投影を果たすのではなく、記憶の消尽という次元をむしろそのまま記録することがいまや写真には求められている。露口の「北海道写真」 はこうした状況に対して提出された、最も真率な作例の一つである。"
── 倉石信乃(詩人、美術評論家) 本書寄稿「写真史の死角から」より抜粋



"日本史はその起源から強制移住の連続であり、そのことを想起することなしには、「東北」も「北海道」も見えてこない。古代の響きを持つ「開拓使」という官庁名は、維新政府が律令国家との連続性を誇示するために選ばれたものだ。露口啓二がまなざす 「移住」は、この途方もない「長期持続」の次元に身を置くことを要請する。"
── 鵜飼 哲(哲学者、活動家)